どのような治療がある?

監修:オリンピア眼科病院 神前 あい 先生
伊藤病院 渡邊 奈津子 先生
  

甲状腺眼症には、甲状腺治療とは異なる、眼症の治療が必要です

甲状腺眼症の患者さんの多くは甲状腺の機能が亢進しているため、抗甲状腺薬の服用など、甲状腺の機能を正常にする治療を行います。ただし、眼症の症状は甲状腺の機能とは並行せず進行することが多いため、眼症に対しては甲状腺眼症の専門医による治療が必要となります1)

甲状腺眼症の治療には、ステロイド治療、放射線治療、手術などがあります

甲状腺眼症では、患者さんごとにさまざまな症状が現れます。症状、重症度、発症からの期間などに応じて、適した治療を選択します(図)。
図:甲状腺眼症の経過と各時期の治療
  
  
日常生活への影響が大きい(重症の)場合
①ステロイド・パルス療法2)
甲状腺眼症では免疫の異常により炎症が起こっているため、免疫を抑える働きのあるステロイド薬を、短期間で集中的に投与する治療(ステロイド・パルス療法)を行います。一般的には、ステロイド薬を3日間点滴し、これを1サイクルとして1週間ごとに3週間投与します(Daily法、図)。
副作用として、糖尿病や感染症の悪化、肝臓や心臓への悪影響が出る可能性があるため、できるだけ入院して慎重に行う必要があり、患者さんの状態によっては実施できないこともあります。また、入院治療が困難な場合は、週に1回12週連続して点滴する方法もあります(Weekly法、図)。
図:ステロイド・パルス療法のスケジュール例
  
  
②放射線治療2)
炎症を引き起こしている免疫細胞を減らすために、眼の周りの組織に放射線を照射する治療です。免疫細胞は放射線への抵抗力が弱いため、免疫細胞に選択的にダメージを与えることができます。一般的には、1日1回、週5日の照射を2週間行います(図)。多くの場合、ステロイド・パルス療法と一緒に行いますが、ステロイド薬が使えない場合は単独で行うこともあります。
放射線の作用で一時的に炎症が悪化することがあります。また、網膜の病気(網膜症)を悪化させることがあるため、糖尿病や高血圧で網膜症がある方では実施できません。
図:放射線治療とステロイド・パルス療法の併用
  
  
日常生活にそれほど影響がない(軽症の)場合
保水成分や涙の代わりとなる成分を含む点眼薬や眼軟膏を用いて、角膜・結膜を保護し、経過観察します2)。また、これらの治療は活動期を過ぎてからでも、眼球突出でドライアイが起こっている場合などには継続して行います。
まぶたに局所的に腫れが起こっている場合
ステロイド薬をまぶたに直接注射し、炎症を抑える治療を行います2)
活動期を過ぎてから行う治療
ステロイド薬や放射線治療は炎症を抑える治療のため、炎症が起こっていない時期(非活動期)に行っても有効ではありません。非活動期に症状が残ってしまった場合には、主に手術による治療を行います。逆に、活動期に手術を行うと炎症がさらに悪化することがあるため、手術はステロイド薬や放射線で十分に炎症を抑えてから行います。ただし、視神経の圧迫による視力障害が起こっており、ステロイド薬や放射線による治療で改善しない場合には、緊急で手術(眼窩減圧術)を行うことがあります2)
眼の突出に対して
ステロイド薬をまぶたに直接注射し、炎症を抑える治療を行います2)
眼窩減圧術1,2)
眼の奥の骨や脂肪の一部を取り除き、眼の奥のスペースを広げて圧力を下げることで、眼の突出を改善する方法です(図)。眼の突出の度合いが重度な場合や、眼の突出のために常に角膜障害が起こっている場合などに行います。手術の合併症として複視が起こることがあり、複数回の手術が必要となることもあります。また、切除する組織や位置によって減圧効果や合併症の起こる確率が異なります。
図:眼窩減圧術
  
  
斜視、複視に対して
①斜視手術2)
斜視や複視は、眼を動かす筋肉が固くなってしまい、眼の動きが障害されることで起こります。斜視手術は、固まってしまった筋肉を眼からいったん切り離し、位置や角度をずらして固定しなおすことで、眼の位置や角度を調整する方法です。手術をしても複視が完全に治ることは難しく、正面と下方を見たときに症状が改善されていることを目標とします。症状の残り具合によっては追加手術を検討します。
図:斜視手術
  
②ボツリヌス毒素注射2)
筋肉の緊張を一時的に緩める働きのあるボツリヌス毒素を眼の周りの筋肉に直接注射し、斜視の改善を図る治療です。
まぶたのみひらき、腫れに対して
眼瞼手術2)
まぶたをあげる筋肉が腫れたり、まぶたの脂肪組織が増えたりすると、まぶたがみひらき、腫れることがあります。眼瞼手術は、まぶたを開けるための筋肉を伸ばしたり、増えた脂肪組織を切除したりすることで、まぶたの位置を調整したり、腫れを取り除いたりする方法です。手術をしても左右の不均一などが残り、追加手術が必要となることもあります。症状の改善をどこまで求めるか、医師と十分に話し合うことが大切です。