知ってほしい、甲状腺眼症の私がみた世界
~蔦谷里華さんの場合~

  
『甲状腺眼症』という病気をご存じでしょうか?甲状腺眼症はバセドウ病患者さんの25~50%で発症すると
いわれており1,2)、免疫の異常によって目の周りの組織に炎症が起こる自己免疫疾患です。
甲状腺眼症では、びっくりしたときのように目が見開いて見えたり、眼球が前に飛び出ているような見た目に変化したりする場合もあれば、モノが二重に見えてしまうなど視機能が低下する場合もあり、症状や日常生活へ及ぼす影響は人それぞれです。
今回は、SNSで話題の「こねこフィルム」の作品に出演し俳優としてご活躍中の蔦谷里華さんに、甲状腺眼症による困りごとや、疾患とのつきあい方についてインタビューした内容をお届けします。
写真_蔦谷 里華さん モデル・女優
  

蔦谷 里華(つたや りか)さん
モデル・女優

10代でバセドウ病を発症し、甲状腺眼症による眼球突出などの顔貌の変化に苦しみ、数度の手術を経験。
病気による苦難を乗り越え、現在はモデルや女優として幅広くご活躍中。

バセドウ病と甲状腺眼症の発症

目の症状がきっかけでバセドウ病であることが発覚

私が最初に体調の異変を感じたのは18歳のころでした。高校の体育の授業中、10分も運動していないのに心臓の鼓動がうるさいぐらいに感じ、吐き気やめまいがして目の前が真っ白になることがありました。また、アルバイト中にも1時間もたたないうちに立っていられなくなることが多くなりました。その時点では何が原因か分からず、周囲から「ただやる気がないだけだ」と思われたくない一心で頑張っていました。一度脳外科を受診したことがあり、先生から自律神経失調症だと言われたのですが、そのときは単に自分のメンタルの問題、体力がないことが原因だと思い込み、重くは考えていませんでした。
イラスト_バセドウ病と甲状腺眼症の発症1
そんな私が病気に気づくきっかけになったのが、1年後に現れた目の症状です。鏡を見たとき、右眼の白目の見える範囲が広くなった(いわゆる四白眼)ことで瞳が小さく見え、「もっと優しい顔をしていたような...こんなに人相悪かった...?」と感じたことを記憶しています。また、もともとは薄い二重だったまぶたの線が消えてしまった一方で、目は大きく見え、右眼だけ閉じることができなくなっていたことから「不思議な現象だな」とも思いました。
イラスト_バセドウ病と甲状腺眼症の発症2
私はこれらの症状がきっかけで「目の病気かな」と思い眼科を受診しましたが、その場では診断がつかず、近くの総合病院の眼科で精密な検査を受けるよう紹介状を書いていただきました。しかし、次の病院でも異常は見つかりませんでした。診断がつかず諦めかけていましたが、母がいろいろ調べたうえで、「あなた疲れやすいし、吐き気がするとよく言っているよね。目の症状も含めて、もしかしてバセドウ病じゃない?」と話してくれたので、近隣の内科を受診しました。そして、血液検査などを行い、ようやくバセドウ病と診断されました。
写真_バセドウ病と甲状腺眼症の発症
当時を振り返ると、「疲れやすいといった体調の異変は自分の心の問題だ、目の症状には何か別の原因があるに違いない」と、それぞれの症状をまったく別物ととらえていたように思います。眼科の受診時に全身の体調に関することを相談できていれば、より早い段階でバセドウ病や甲状腺眼症であることに気づけていたかもしれません。
甲状腺眼症による困りごと

周りの方からの視線がつらかった

甲状腺眼症による見た目の変化、特に眼球の突出によって周囲の方から「目力強いね」などと言われるようになり、自分でも鏡を見るたびに「自分の顔じゃないみたい」と感じていました。当時は、眼球の突出をごまかすためにカラーコンタクトレンズが欠かせず、黒目を大きく見せることで白目の面積を減らして、見た目の怖さ、目力を半減させようとしていました。
写真_甲状腺眼症による困りごと
また、見た目の変化以外では、眼球突出が原因の逆さまつ毛にも悩まされました。裸眼のときはまつ毛が内側に入ることで眼球がぼろぼろに傷つくような感覚がありました。ほかにも、右眼の奥が圧迫されるような違和感があり、疲れたときには痛みを感じることもありました。
このような見た目の変化は、仕事やマインドにも影響がありました。
モデルとしての活動では、目の症状が強く出ていた右眼側を絶対に写してほしくないと必死でポージングを調整していました。さらに、そうやって左側の写真ばかり載せると、「実際の私に会った方は写真との違いにがっかりするかもしれない」と想像してしまい、ネガティブな気持ちになっていました。今考えると、当時は自意識過剰といえるくらい、容姿のことばかりにとらわれるようになってしまっていたと思います。
イラスト_甲状腺眼症による困りごと
疾患を打ち明けたことによるメリット

病気を打ち明けたことで前向きになることができた

病気のことを隠さず話してみようと決めたのは、ある日SNSで私の写真が話題になった際に、右眼について「殴られたの?」といった心ないコメントをされたことがきっかけでした。そのとき、「きっと病気のことを公表したほうが気持ちが楽になるんじゃないか」と直感し、勇気を出して病気であることを公表しました。すると、「病気のことを知らなくて、ごめんなさい」と、素直に謝罪のメッセージが届きました。
この経験から、病気であることを知っているかどうかで周囲の反応が変わることを学びました。自分を守るためには病気であることをオープンにしたほうがよいという発想に変わり、それからは以前と比較して精神的に落ち着くことができました。
写真_疾患を打ち明けたことによるメリット
そして、今の「こねこフィルム」の仲間たちとの出会いが、私の最大のターニングポイントになりました。「こねこフィルム」には映画やドラマの現場で経験を積んだクリエイターなどが所属し、笑いやリアリティに溢れる独自の世界観を、ショートドラマなどを通じて発信しています。
私は身長が高いほうで、役者としては規格外としてとらえられることが多い中、彼らは「それも素敵な個性だよ」と、ポジティブに肯定してくれました。また、私のバセドウ病や甲状腺眼症による経験を価値として認めてくれました。
このような環境で役者として芝居の仕事を始めてからは、コンプレックスを感じていなかった時期、中学生ぐらいの自分に戻ったような気がしています。今は物事がうまくいこうがいくまいが、そのとき楽しいと感じることをやろうと思えるようになりました。環境の変化や新たな出会いが、自分の人生をよい方向に大きく変えてくれました。
蔦谷さんからのメッセージ
私の場合、バセドウ病と診断がつく前は、体力のなさを自分のせいだと思い込み、体育の授業やアルバイトで無理をしていました。今、原因不明の目の症状や疲れやすさなどの体調不良で悩んでいる方には、「決して自分が悪いと思わないで」ということを伝えたいです。
そして、私のように目の症状がきっかけでバセドウ病の診断がつくケースは少ないかもしれませんが、眼科で異常なしと言われても、全身の体調不良と結び付いた血液検査で病気が発覚することもあります。もし、もっと早くにバセドウ病と診断がついていれば、当時のつらい状況に対して周囲の理解を得られ、無理をしなくてもよかったかもしれません。疲れやすいと感じるようになったり、目に異変を感じたりするときは、一度病院で相談してみるとよいと思います。
今、症状で困っている方には、ご自身の症状を諦めずに周りに伝え、前を向いてほしいと願っています。そして周囲の方へもお願いしたいことがあります。みなさまのサポートは患者さんが前向きになるための力になります。そのために、私と同じような症状を抱える人のことを単に根性がない、怠け者だ、ととらえるのではなく、話を聞いて受け入れてあげてほしいです。
写真_蔦谷さんからのメッセージ
今回の蔦谷さんのように、目の症状がきっかけでバセドウ病などの甲状腺に関わる疾患であることが発覚する場合があります。目の症状は眼科に、疲れやすいなどの全身症状は内科に、と決めるのではなく、気になることがあったらどんな症状でも主治医の先生に相談してみましょう。
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